■大都会のカミキリムシ




これを読んでいるあなたに質問があります。

ある日あなたは仕事に行くためにいつもの電車に乗りました。

座席は一杯なので立つことにしました。

ヒマだから本でも読むとしましょう。

ふとページをめくろうとした時、視界に妙なものが横切りました。

自分の前には白いワイシャツを着たおばちゃんが
 自分に背を向けて立っているのですが、
 その白いワイシャツに妙なものがくっついているのです。

よく見るとカミキリムシです。

きっとどこかから落ちたか飛んできたかして、
 そのままおばちゃんと一緒に電車に乗り込んでしまったのです。

 

あなたならどうする??

 

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ボクは揺れる電車の中で
 おばちゃんの背中で触覚を揺らしながらへばりついている小さな虫を
 凝視しながら考えを巡らせました。

無視するか?

でも気になる。

無視しようとしても目の前だからすごく気になる。
取ってやりたい。

でもこういう時ってどうやって取ればいいんだ?

「虫がついてますよ」と言ってから取るか?

それとも黙って取るのがいいのか?

いや、黙って取ってて、もしカミキリムシが
おばちゃんのワイシャツにしがみついて離れなくて、
なおかつボクがそれを引きはがそうとしてるところで
おばちゃんが気がついたら
おばちゃんはきっとボクを不審に思うだろう。

もし取ってやったとして、
その虫はどうする?
目的の駅に止まるまであと十数分はかかるから
その間ずっと持っていなければいけないゾ。
窓から放るわけにもいかないし。

やっぱり無視したほうがいいのか?
自分には関係ないし。
現に周りの人も気がついているけど
誰1人として声かけたり、取ってやろうとする人はいない。

無関心に染まるのが都会の暗黙のルールなのか?

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やっぱり我慢できねぇ・・・。
ボクは小さく声を出しました。

「おばちゃん、背中に虫ついてますよ」

それからおばちゃんの背中から虫を引きはがしました。

 

おばちゃんは礼を言いながらバッグの中からティッシュを取り出そうとしました。
どうやらそれに包んでしまうつもりらしい。

「いや、ボクが持ってるからいいですよ」

ボクはそう言って笑顔でおばちゃんを制止しました。
周りの人はみんなボクのほうを見ます。
ちょっと恥ずかしいです。
毛虫を触るのは嫌でもカミキリを触るのはなんでもありません。
虫遊びをしたことない人や、女の人からすると
こんな虫でさえ気持悪いのでしょうか?

人差し指とと親指でカミキリムシをはさんだまま
目的駅までずっと立ってました。
甲虫類の力のすさまじさたるや、
人間の指の力を押し返さんばかりの勢いです。
小さな虫はギリギリと音を立てて歯を鳴らしながら(本当は歯ではないと思うが)
しきりに叫びます。

「オイ、オレを自由にしろ!」

体をひねり、片側の3本の足をボクの指にひっかけ、
むりやり引き離そうとします。

「テメ、ナメんな、このトゥヘンボク!!」

鋭い歯で噛んだりもします。

おばちゃんには渡せない。

おばちゃんに渡したりしたら、ヘタすると殺されてしまうかもしれない。
ゴミ箱にさえ捨てかねない。
小さな虫とはいえ、そんなわけのわからん死に方は許されない。

1寸の虫にも五分の魂。

小さな命を尊ぶことは大きな命をも救うことなのだ。

 

 

目的の駅に着くと静かな場所まで行き、
 葉の茂った樹木の間に逃がしてやりました。

もしボクがこの先、
このカミキリムシに噛まれた傷から
ものすごい珍しい病原菌に冒され、突然病死したりでもしたら
ボクの墓石にはこう記してください。

“この男、ビルの谷間で小さな命を救い、ここに眠る”






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