■お毛々シスターズ♯3 ケンジ

「たけしさん、あの・・・マサヒコのやつを・・・ってホントですか・・・?」

蚊の鳴くような声で申し訳なさそうに言うこの男は名を菊地という。
私の数多くの乳毛の中にあってとりわけ体だけはずんぐりと大きく力強いが、
いつも自身なさげに小さな声でしゃべる食いしん坊で小心者の男だ。


「ああ。菊地、なんだって?」
私はよく聞き取れない彼の言葉を聞き返した。
「あの・・たけしさん、マサヒコのやつを永久脱毛するって聞いたんですがホントですか?」
菊地はしかられた子供のように上目遣いに私のほうを見ながら言った。
「ああ。前からそうしようと思ってたんだが今度こそ亡き者にしてやるぞ」
「・・・・・」
「なんだ、何か言いたいことでもあるのか菊地?」
「・・・・・」
「いいから言ってみろ。棒きれみたいに突っ立ってたってわからんぞ」
「・・・その・・・うちのオヤジが土建屋やってるの知ってますよね・・?」
「ああ、それが?」
「マズイんです」
「何が?」
「・・・マサヒコのオヤジは議員の秘書で・・・
うちのオヤジはあいつとこから仕事もらってるんです・・・」
「そうなのか」
「・・・で、もしマサヒコがたけしさんの乳首から消えでもしたら、
間違いなくオヤジは仕事止められるんです」
「そりゃないよ。マサヒコの件とおまえとは何も関係ないだろ」
「・・・いや、・・・マサヒコのオヤジはそういうヤツなんです」
「・・・う〜〜〜ん・・・」私は考え込んだ。
「・・・何か他の方法はありませんか、たけしさん・・・?」
「わかったよ菊地。少し考えてみる・・・」
菊地は何度もスイマセンと頭を下げながら私の部屋を出た。



「・・・まったく・・。議員ならまだしも、たかが議員の秘書ってだけで肩で風切るとはな・・。
子が子なら親も親ってカンジだな・・・」私はボヤいた。
「どうするつもりなの、たけちゃん?」
私のPCの中の絵が徐々に出来上がる様を興味深げに覗いていたケンジが
今度は私の顔をのぞき込んで心配そうに言った。
「・・・困ったな。オレのことで菊地に迷惑かけるわけにはいかんし・・・」
「永久脱毛となると店からアシついちゃうっスよね」
「そうだな」
「オレがハジいちゃいましょか? マサヒコのやつを」
ケンジはうれしそうに笑いながら言った。
「バッ、バカ言うな。オレらマフィアじゃないんだぞ!!」
私はあわててケンジをさえぎった。


この男ケンジは男衆のお毛々の中では信頼できる数少ないヤツだ。
こいつにはうまいもん食べによく連れていってやるし
ケンジも私を慕ってしょっちゅうオレの家に遊びにやってくる。
男といえども手間暇かけてトリートメントだってしてやる。
彼は私の大のお気に入りのお毛々なのだ。

「たけちゃん困らせるヤツはオレが面倒見てやるよ。ドジしないよ。絶対アシつかないスよ」
「ま・・待て。お前はすぐ物騒な話にするからな・・・。銃はマズい。銃はマズいよ」

ケンジが持っている銃とは市販のベレッタを改造したエアーガンだ。
たかがエアーガンだと思ってナメてはいけない。
こいつのエアーガンはチャンバーは元よりガス圧に至るまで極限までカスタムしているので
人間の皮膚くらい簡単に穴を開けてしまう。
本物の拳銃との違いといえば殺傷力がやや劣ることと火薬を使っていないことくらいだ。
以前こいつを怒らせた脇毛地区のチンピラの一人など
未だに体の数カ所に渡って摘出できないBB弾が残ったままだ。
普段は私に忠実な気のいい男であるが怒らせると手がつけられないのだ。


「じゃあこうしようよ、たけちゃん。若いヤツ数人集めてオレがアイツをシメてやるスよ。
 もう二度とカスミに手を出さないようにサ」
「リンチなんか認められんぞ!!」
「大丈夫スよ、たけちゃん。ジェスチャーだけだから。オレたちがニラミきかせたらおとなしくなるから」
「出来たら暴力なしにしろよ・・・」
「わかってるよ。たけちゃんにも菊地のやつにも迷惑かかんないように、軽くオドすだけだから」
「それなら頼むよ。くれぐれも暴力なしの方向でな・・・」
「わかってるって。オレを信用してくれよ」

ケンジは私のPCの前に座り見よう見まねで何かのイタズラ書きを始めながら言った。
「まったくたけちゃんの女に手出すなんてアホゥなヤツだね」
「滅多なこと言うなよ。カスミはそんなんじゃないぞ」
「へぇ? てっきりそうだと思ってたスけどね」
「オレみたいなオッサンがカスミと釣り合うわけないじゃないか」
「そうかなぁ、お似合いだと思うけど」
「・・・その話はいいって・・・。ところでおまえの兄さんフランスに行ってるんだったな」
「うん、そうスよ。オレと違って芸術家なんだよ。作曲家なんス」
「たまには会ってるか?」
「兄貴忙しいし、遠いスから・・・。
あっ、来月は久しぶりに帰ってくるんだ。たけちゃんも兄貴に一度会ってくれよ」
「うん。オレも是非会ってみたいな」
ケンジはPCのマウスを置くと大きく伸びをしてからつぶやいた。
「やっぱオレ、才能ないスわ」
私のPCの中でヘタクソなカッパのような絵が出来上がっていた。
ケンジは頭をボリボリかきながら立ち上がった。

「じゃそろそろオレ帰るス。マサヒコの件はまかしといて。明日の晩にでも片つけてあげるよ」
「頼んだよ。いつもすまんケンジ」
私がそう言うとケンジは立ち去りながらフフッと含み笑いをした。
「どうしたケンジ、オレなんか変なこと言ったっけ?」


「ごめんごめん。・・・いやね、たけちゃんてオレの兄貴にそっくりなんだ。
  なんか不思議な感じだよ」



ケンジはそう言ってニコリと笑うと私の部屋を出ていった。
ドアが閉まるとマンションの廊下からケンジの陽気な口笛が響き、そして遠のいていった。

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