■お毛々シスターズ♯6 探索人

せかせかと荷造りをする私はバッグの中に携帯食料の缶詰を入れようとした。
脇毛地区への旅支度だ。

「ダメダヨ、タケシーサン。」

それを後ろでアンドリューが陽気な声で制止する。
「荷物ハナルベク軽ク。ボク、料理ハ得意デス。現地調達シマショウ」
私はうなずいた。


アンドリュー。
彼は乳毛地区で働く忠実な召使いアンドロイド。
当然ながら彼はお毛々ではない。
脇毛地区の青龍会までのガイドは彼がする。
白いバスケットを抱えてテクテクと駆けてきた小さなお毛々の女の子はハルカ。
ハルカは勢いあまってアンドリューの手前でつまづいた。
アンドリューはすかさず倒れそうになったハルカと宙を舞うバスケットを受け止めた。
アンドリューはハルカを立たせると、バスケットをハルカに返した。

「ハルカ、ダメダヨ。危ナイヨ」
「えへへ、アンドリュー、ありがと」
ハルカはニッコリ笑うと小走りで私の側に来た。
それから手に持っていた白いバスケットを私に手渡す。

「これねぇ、ハルカが作ったの。おやつに食べてね」
バスケットを開けると中には星形のバタークッキーがたんまり入っていた。
「これハルカが作ったの? 上手だね。いいお嫁さんになれるね」
ハルカは照れくさそうにテヘヘと笑う。

「いいなぁ、ハルカも一緒に行きたいなぁ」
「だめだよ、遊びに行くんじゃないんだから」
「じゃあ、おみやげ楽しみにしてるからね」
ハルカは私たちが遠足にでも行くと思っている。
「いい子にしてたらハルカの大好きなもの買ってくるよ」
「え!? “アレ”のこと!? アレ買ってくれるのっっ!?」
「うん、いいよ。いい子にしてたらね」
「わーーーーい!!」
ハルカは無邪気に両腕を大きく広げて喜んだ。

ハルカはまだ知らなくていい。
大人のドロドロした世界など知らなくていいのだ。
私は壁の掛け時計を見た。
14時30分。
私はジャケットを羽織り立ち上がった。
「タケシサン、ドコヘ?」

「人に会ってくる」


・・・・“人”ね・・。あんな奴が人と呼べるだろうか・・・。

ファミレスの一番奥の席には私ともう一人の小男が向かい合って座っていた。
あたりに他の客はいない。
私の前にいる男はコーヒーをズルズルと音を立ててすすると、懐からアルミ製の箱を取り出し、
吸いかけのシケモクの中から1番長いタバコを選び、キセルに刺してから火を付けた。
せせっこましく口をとがらせてタバコを吸うこの中国風の小男が“探索人”だ。
“探索人”とは名ばかりで実は秘密裏に物騒な“仕事”や殺しを請負う危険な男である。
この出っ歯の小男は事のいきさつを私から聞くなり瞳をらんらんと輝かせた。

「誰を殺ればいいんだね?」

「殺すんじゃない。マサヒコという男を捕らえるだけだ」
「その男知ってるね。暴れたら殺していいか?」
「ダメだ」
「取り巻きの連中は殺していいか?」
「ダメだ。捕まえるだけだ。あと適当に暴れるのはかまわん」
「あんた知ってるか? 脇毛地区アブナいとこよ。と〜てもアブナいよ。遊びないね」
「だからおまえに頼んでるんだ」
「お兄さん、あんたソレ人に物頼む態度か? 私気分悪いね。
 すご〜く気分悪いよ。あんたなかったら死んでるよ」
「金なら出す」
「高いよ。私と〜ても高いね。あんた払えるか?」
「払うよ。やるか?」
「この間見たよ。その男、いい女連れてたね。背の高〜い女」
私の眉はピクリと動いた。
「マサヒコの遊んでる女ね。確か“カスミ”云うね」

“・・・それがどうした?”

「カスミ私がもらう。これ条件ね。あの女、私タイプよ。いい尻してるね」
探索人は前歯をひんむいて下品に笑った。歯の間から唾液の泡がブクブク出ている。
私はテーブルを叩いて立ち上がり叫んだ。

「おまえなんかに頼るもんか!!」

なんて胸クソ悪い奴だ。こんな奴には関わりたくない。
店を足早に立ち去る私に探索人は言う。

「いいや、戻ってくるね。あんたきっと戻ってくるよ」

それから付け加えた。
「待ってるね! 気が変わったらいつでも来ることよ!!」

その時、店内の有線から平井堅のファルセットボイスが響き渡った。
“♪そぉれぇだぁけでぇぇぇい〜い〜いぃ〜〜〜♪”



いいもんかよ、コノヤロゥ・・・。

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