■お毛々シスターズ♯7 アンドリュー

まさにジャングルであった。

私とアンドロイドのアンドリューは脇毛地帯の国境を越え、
豪々と草木とお毛々が生え茂る道なき道をかき分け青龍会の根城を目指した。
結局探索人の助けをしかたなく借りることになった。


しかたないのだ。
シロウトの私たちだけでどうこうできるわけがない。
しかし探索人とは別行動で、現地で合流の段取りにしてある。
あいつとはなるべく一緒にいたくないからだ。
無論契約に際し、“カスミの条件”は却下させた。


オレンジとイエローのツートーン・ナップサックを背負ったアンドリューは
リズミカルに歩きながら手にしたナタで目の前に塞がるツタや木の枝を
バッサバッサと切り落としながら私を先導した。
「♪今ジャ悲シミダケノォォォ・明日モナイ二人ガァァァァ♪」
アンドリューはさっきからずっと歌い続けている。
古くて、しかもマニアックな曲ばかり・・・。
「♪分カチ合エルモノハ只ァァァ・思イ出ダケェェェェェ♪」
私はアンドリューの陰気な歌詞の歌にウンザリして言った。

「止めろよ。なんだその歌は」
「エッッ、“COMPLEX”知ラナイカ? 吉川ト布袋ノ」
「知らないよ。止めろよ、そんな歌」
「ジャ、“あずさ2号”ハ?」
「なんで狩人だよ。もっとダメだよ」
「ジャ、“東京砂漠”ハ?」
「そんな歌絶対歌うな。なんでクールファイブだよ。歌ったら殺す」
「前ハアンナニ好キダッタジャナイ。“あずさ2号”モ“東京砂漠”モ
カラオケデ・アンナニ歌ッテタノニ」
「みんなにリクエストされたからだよ。今は嫌いだよ」
「嫌イナノ?」
「ああ、嫌いだね。特に“東京砂漠”なんか大っ嫌いだね」
「・・・ソウナノ」
「東京砂漠になんかなってたまるか。オレは東京で砂漠になんかなるもんか。なってたまるか」
もはや私は現実と虚構の狭間でユラユラとくすぶる黒煙だった。
清めてくれる雨だけを待っている。


固い皮膚が擦れるようなカサカサという音がしたかと思うと
目前を巨大な影が横切った。
「な、なんだ、今のは!?」
「アレハ、タケシサンノ肌ニ生息スル“ダニ”デス」

巨大なイノシシだと思ったその生物はダニだった。
普段は目にすることができない小生物でも
この世界で実際に見る実物は不気味な姿だった。
近くで見るとまるでグロテスクな金平糖みたいだ。

「ダイジョウブデス。ワタシタチハ襲イマセンカラ」

曇りガラスのような半透明なダニはガサガサと音を立てて
密林の中に消えていった。



道の途中、あらゆるところに異臭を放つ黒い粘土のようなものが積み上げられていた。
「アンドリュー、あれは何だ?」
「アレハ、タケシサンノ“垢”デス」
これまた、実際に見る私の肌の表面はえらいことになっていた。
ギラギラと脂ぎったその垢は火をつけるとよく燃えそうだ。
「アレニ足ヲトラレタラ最後デス。気ヲツケテ」
よく見るとその私の垢に足を取られ
動けなくなったまま死んでいった小動物の白骨死体があちこちに散らばっている。
自分の肌の上を自分が歩く。変な気分だ。
今この瞬間にも私の脇の間を別の自分が歩いているのだ。
そしてその別の自分の脇の間をまた別の自分が歩いて・・・・・・。



「さすがに暑いな」
私はタオルで滝のように流れる汗をしきりにぬぐいながら言った。
「ジャングルデスカラネ」
「アンドリュー、おまえはいいよ。汗はかかないし、壊れてもパーツ交換すれば元通りだからな」
「・・・イエ、ソウデモナインデス」
「?」
「ボクノ体ノパーツハ古イデス。ホトンドノパーツガ既ニ生産中止デス」
「そうなのか」
「USB端子サエ付イテイマセン。ソフトウェアノ・インストールハ今ダニ・フロッピーデス」
「CD-ROMも対応してないのか、おまえは」
「ダカラ、壊レタラ私死ヌ時デス。アナタト同ジネ」

「・・・気をつけなきゃな」


私たち2人はいつ終わるともしれない密林をさらにかきわけていく。
奥へ。奥深くへ。

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